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名護市立久辺小学校教頭
絵本作家
金城 明美 さん
撮影:高野生優(フォトアートたかの)
平和の願い絵本に込めて

 母親の戦争体験を記した「つるちゃん」、対馬丸を経験した恩師をモデルにした「ケーイ」などの絵本で知られる金城明美さん。戦後65年の節目の年、西表島の戦争マラリアに触れながら、多感な子どもたちとのコミュニケーションのヒントをつづった新しい絵本「西表なんくる島」を4月に発行した。小学校教諭として子どもたちとふれあいながら、絵本作家として活動し15年。「沖縄戦を体験した方と今の子どもたちが抱える心の問題には、共通点がある」と語る。

 
個性受け止め関わり合う
 
読み聞かせサークル「まつぼっくり」のお母さん、児童と一緒に、教室で「西表なんくる島」を読み聞かせする金城さん(中央)。「みんな、マラリアって知っているかな?」と、解説した(名護市立久辺小学校、撮影/編集部)
 
「頑張ってきた過去に気づいて受け入れたとき、『なんくるないさ〜』と前向きに未来を捉えることができる」
 
「笑顔はどこかな〜。探してみよう」という金城さんの呼びかけで、子どもたちはイラストとにらめっこ。「こっちにあった!」「これも〜」とうれしそうに指差しする。「西表なんくる島」は、6月19日(土)に北中城村あやかりの杜で開催される「親子平和読み聞かせ会」でも披露される
 「西表なんくる島」は、主人公たちが友達の足を治してもらおうと、自然の神様を訪ねる物語。冒険を通して、認め合い分かち合うこと、対話の大切さを伝える。
 絵本の舞台・西表島は、教師となって初めて赴任した先。
65年前、戦争とマラリアという2つの脅威にさらされ、戦争が終わった後も、マラリアの感染源となる蚊を駆除する努力が続けられた。「その話を聞かせてくれた方が生きている間にと急いだけど、間に合わなかった…」と涙する。
 平和の願い、命の尊さを伝えるために「戦争を体験していない自分たち世代が何をするか」。その思いが、絵本づくりや十数年続ける読み聞かせ活動の原動力になっている。
 金城さんの絵本の特徴は、歴史的事実の解説や専門家の話を加えた「あとがき」があること。また、多様なものの見方をする子どもたちのために、絵にも細やかな工夫を凝らす。今回は「笑顔探し」だ。
 「例えば、リュックの一部が笑顔に見えたり、滝を全体的に見ると笑顔が隠れていたり。低年齢の子や発達障害がある子は、絵の中の部分に注目する傾向がある。そういう個性に大人が気づけば、かかわり方も変わってくるはず」
 「笑顔」にこだわったのは、生きる力の源だと感じているから。「子どもってまず認めて、ほめてあげると聞いてくれる。真剣に諭したり、真顔で小声で話すとシュンとするけど、『先生、わかった』ってニッコリ受け止めてくれる。笑顔は、ソワソワとかイライラを乗り越える術なんだということを教えられている気がする」

左端が不登校に触れた「あおじゅごん」。右端が最新刊の「西表なんくる島」
 戦後50年の節目に「つるちゃん」を出版して以来、8冊の絵本を手掛ける。「戦争体験のトラウマがある人と、多動傾向がある子どもには似たような症状が見られるというデータがある」と、不登校や特別支援が必要な児童への理解などもテーマに盛り込む。
 大切にするのは、かかわり。「落ち着きがない子、解釈がズレてしまう子、一番困っているのはその子自身。みんなで一緒になって受け止めてあげることで、少しずつ前を向いて進んでいけると思う」
 絵本のタイトル「なんくる」には、日々頑張っている子どもたち、沖縄の人たちへのエールが込められている。
 「『なんくるないさ』は、過去を振り返ったときちょっと良くなっていることに気づいて使う言葉だと思う。つらい、苦しい『いま』に振り回されず、頑張ってきた過去に目を向け受け入れたとき、『なんくるないさ〜』と前向きに未来を捉えることができるはず」
 子どもたち、そして沖縄の未来に、絵本を通して優しく寄り添う。 (比嘉千賀子)
 
 
ところで… +α
 取材の日、白地にピンクの花柄模様のブラウス姿で現れた金城さん。「このブラウスは、友人が私のイメージで作ってくれたもの。アクセサリーは妹が選んでくれた。あまり格好を気にする方ではなくて…。感謝しています」と苦笑する。
 友人手づくりのブラウスは数着あり、毎年開催している親子平和読み聞かせ会には、「友人へのエールを込めて」必ずそれを着るという。絵本と服、形は違えどもオリジナルなものづくりを続ける友の存在が力になっているよう。
 
 
P R O F I L E
きんじょう・あけみ
 1961年北中城村生まれ。琉球大学大学院教育学研究科社会科教育修了。西表島上原小学校を皮切りに、県内6小学校を経て現在、久辺小学校教頭。発達と心理を勉強中。教員のかたわら絵本作家として活動。学校や地域での読み聞かせ活動も行う。著書に「つるちゃん」「沖縄戦―母から命へーちむどんどん」「―つしま丸・沖縄戦―ケーイ」「―沖縄・平和・環境―あおじゅごん」「ユイタとアガイのわったぁ家〜」がある。
 
 
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